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仙台地方裁判所 昭和47年(ワ)18号 判決 1975年2月27日

昭和四六年(ワ)第九二〇号事件原告

遺言者亡佐藤惣治遺言執行者

渡辺要作

昭和四七年(ワ)第一八号事件被告

佐藤かちよ

右両名訴訟代理人

渡辺大司

外一名

昭和四六年(ワ)第九二〇号事件被告

昭和四七年(ワ)第一八号事件原告

佐藤菊枝

右訴訟代理人

佐藤達夫

主文

一、昭和四六年第九二〇号事件について

同事件原告の請求を棄却する。

訴訟費用は同事件原告の負担とする。

二、昭和四七年(ワ)第一八号事件について

同事件被告は同事件原告に対し金二、七二六、三四六円及びこれに対する昭和四七年一月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

同事件原告のその余の請請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を同事件被告の、その一を同事件原告の各負担とする。

事実

第一、昭和四六年(ワ)第九二〇号事件について

同事件原告(以下単に原告と略す。)訴訟代理人は「同事件被告(以下単に被告と略す。)は仙台市荒浜字南丁二八番地佐藤かちよに対し別紙第一目録記載の各不動産につき持分三分の一の移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、訴外佐藤惣治は昭和三三年六月二日死亡し、同人の妻である佐藤かちよと惣治、かちよ夫婦の養女である被告菊枝の両名がその遺産を相続した。

二、そして被告は惣治の遺産である別紙第一目録記載の土地について、仙台法務局昭和四六年七月五日受付第四四、二五一号をもつて、登記原因を大正一〇年六月二三日佐藤惣治家督相続、昭和三三年六月二日相続として、持分三分の一を佐藤かちよ、持分三分の二を被告佐藤菊枝とする所有権移転登記を経由した。

三、しかしながら、右惣治はその死亡前の昭和二九年三月三〇日「右惣治の全財産の三分の二を妻かちよに、残り三分の一をその余の相続人に遺贈する。」旨の自筆証書による遺言をなしていたものである。

四、右遺言書は昭和四六年七月九日仙台家庭裁判所において検認を了した。

五、しかして原告は同年一一月二二日同家庭裁判所から遺言者亡佐藤惣治の遺言執行者に選任された。

六、よつて原告は亡惣治の遺言執行者として、被告に対し右不動産につき被告名義に登記した持分三分の二のうち持分三分の一を佐藤かちよに移転登記手続をなすべきことを求めるため本訴に及んだと述べ<以下省略>

理由

第一昭和四六年(ワ)第九二〇号事件について

一佐藤かちよが佐藤惣治の妻であり、被告が右惣治、かちよ夫婦の養女であること、右惣治が昭和三三年六月二日死亡し、原告と被告の両名が同人の遺産を相続したこと、別紙第一目録記載の土地が右惣治の遺産であること、右土地につき被告が仙台法務局昭和四六年七月五日受付第四四、二五一号をもつて、登記原因を大正一〇年八月二三日佐藤惣治家督相続、昭和三三年六月二日相続として、佐藤かちよの持分三分の一、被告の持分三分の二とする所有権移転登記を経由したことは当事者間に争いがない。

二しかるところ、原告は、右惣治はその死亡前の昭和二九年三月三〇日「惣治の全財産の三分の二を妻かちよに、残り三分の一をその余の相続人に遺贈する。」旨の自筆証書による遺言をなしたものである旨主張するのでこの点について判断するに、

(一)  佐藤惣治作成名義の別紙記載のような「遺言書」が存在することは、甲第一号証の一によつて明らかであり、右遺言書が昭和四六年七月九日仙台家庭裁判所において検認を了したものであることは当事者間に争いがなく、原告渡辺要作が昭和四六年一一月二二日仙台家庭裁判所において右遺言の遺言執行者に選任されたものであることは記録上明らかである。

(二)  そして、甲第八七号証の二中「荒浜南丁二八番地佐藤惣治」の記載部分についてはその成立につき当事者間に争いがなく、<証拠>によると、甲第八七号証の二の右記載部分は佐藤惣治の自筆であることが認められるから、これと甲第一号証の一の遺言書の筆跡を対照して右遺言書が惣治の自筆にかかるものか否かについて検討するに、前者の筆跡は書き慣れた感じの筆跡であるに対し、後者の遺言書の筆跡は椎拙な感じの筆跡であるから、一見別人の筆跡のように見えるけれども、なお些細に検討すると「荒浜南丁二八」の「八」の字や「佐藤惣治」の「惣」の字などは両者その運筆において同一人の筆跡と認められるから、甲第一号証の一の遺言書も佐藤惣治の自筆による遺言書と認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

(三) しかしながら、甲第一号証の一によると、本件遺言書の記載中日付の記載は別紙のとおり訂正がなされているものであるところ、民法九六八条二項によると「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、且つ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力がない」ものであるのに、本件遺言書の右訂正については、右規定の方式の記載も署名もないことは明らかであるから右訂正部分の記載はその効力がないものといわなければならない。

よつて、本件遺言書の訂正された日付のうち「九年三」の訂正記載部分は無効であるから右訂正の記載がないものとして右遺言書の効力を検討するに、民法九六八条の自筆証書による遺言には同条一項において日付の記載が必要とされているからその日付の記載のない遺言は無効というべく、しかしてその日付の記載は年月日を記載することが必要であつて、年月または日だけの記載では不充分であり、かかる遺言は日付の記載のない無効な遺言と解すべきである。

本件において、甲第一号証の一の遺言書によると、その日付の抹消された部分は当初何年何月と記載されてあつたものがその判続ができないように抹消されているのであるから、本件遺言書中の日付の記載は不充分であつて、結局本件遺言は民法九六八条の要件を充たした日付の記載のないもので無効なものといわなければならない。

三してみると本件遺言はその効力がないものであるから、佐藤惣治の遺産は妻である佐藤かちよにおいて三分の一、養女である被告佐藤菊枝において三分の二の割合で相続したものというべきである。

四そうすると、別紙第一目録記載の不動産につきなされた前記の相続による所有権移転登記は、実質的な権利関係に符合するものであるから、佐藤かちよが三分の二の割合の権利を取得したことを前提とする原告の本訴請求はその理由がなく棄却を免れないものである。

第二昭和四七年第一八号事件について

一別紙第二目録記載の土地がもと一筆の仙台市荒浜字南官林五一番保安林公簿面積一、一〇四平方米(実測面積一、一七七平方米)の土地で、被告佐藤かちよと訴外佐藤惣治の共有(持分各二分の一)であつたこと、右惣治が昭和三三年六月二日死亡したこと、被告かちよが惣治の妻であり、原告菊枝が惣治と被告かちよ夫婦の養女であること、別紙第三目録記載の土地がもと一筆の仙台市荒浜字伊勢西二六番畑公簿面積五二八平方米(実測面積七八二平方米)の土地で、佐藤三次郎の所有であつたこと、右三次郎が大正一〇年六月二三日死亡し、その子佐藤惣治が家督相続したこと、そして右惣治の死亡に伴い被告かちよと原告菊枝が右惣治の遺産である右南官林五一番の土地と伊勢西二六番の土地を相続したこと、原告と被告が右共有にかかる二筆の土地を売却することとし、南官林五一番の土地を別紙第二目録記載のように五筆に分筆した上これを原告主張のように訴外人らに売却し、それぞれ訴外人らに所有権移転登記をなし、また右伊勢西二六番の土地を別紙第三目録記載のように三筆に分筆した上、これを原告主張のように訴外人らに売却し、それぞれ訴外人らに所有権移転登記をなしたこと、右訴外人らに対する売却代金はすべて被告においてこれを受領したものであることはいずれも当事者間に争いがない。

二被告は、右惣治が昭和二九年三月三〇日自筆証書遺言により「惣治の全財産の三分の二を妻かちよに、残り三分の一をその余の相続人に遺贈する。」旨の遺言をなしているのであるから、これにより被告は惣治の遺産の三分の二を承継したものである旨主張するけれども、右遺言が無効なものであることは前記判断のとおりであるから、被告の右主張は採用できない。

三してみると、惣治の死亡に伴う原告の相続分は三分の二、被告の相続分は三分の一となるから、その相続により前記の土地につき原被告は次の割合による持分、即ち南官林五一番の土地については、原告が惣治の持分(二分の一)の三分の二である六分の二、被告が相続前から有した二分の一の持分を併せ六分の四、伊勢西二六番の土地については、原告が三分の二、被告が三分の一の各持分をそれぞれ有することになつたものといわなければならない。

四しかして右各土地の売却代金について判断するに、<証拠>を総合すると、南官林五一番の実測一、一七七平方米(三五六坪六六)の土地は坪当り金七、〇〇〇円で、伊勢西二六番の実測七八二平方米(二三六坪九六)の土地は坪当り金一二、〇〇〇円でそれぞれ売却したものであることが認められるから、前者の土地の売却代金の総額は合計金二、四九六、六二〇円、後者の土地のそれは合計金二、八四三、五二〇円となるものであ<る>。

五そうすると、原告の収得すべき金額は、前者についてその六分の二である金八三二、二〇六円、後者についてはその三分の二である金一、八九五、六八〇円となるから、被告は原告に対し右金額を引渡すべき義務があるといわなければならない。

六ところで原告の本訴請求は、被告に対し前者の土地については金八三〇、六六六円の支払を求めるものであるから右金額の範囲でこれを認容し、後者の土地については金一、八九五、六八〇円の支払を求める限度で理由があるから、結局原告の本訴請求は右合計金二、七二六、三四六円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四七年一月一八日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを認容し、その余はこれを棄却すべきである。

第三以上のとおりであるから、昭和四六年(ワ)第九二〇号事件原告の本訴請求はこれを棄却し、昭和四七年(ワ)第一八号事件原告の本訴請求は一部理由のある右限度でこれを認容し、なお仮執行の宣言は当事者が養親子である点に鑑み相当でないからこれを付さないこととし、民事訴訟法八九条、九二条に従い主文のとおり判決する。 (伊藤和男)

遺言書

荒浜南丁二八

佐藤惣治

昭和弐拾九年三月卅日

一、遺言 私所有之全財産之参分之弐を妻かちよに名儀ヲなをして権利書ヲ渡署ク事のこり参分之壱ヲ相続人男女ニ権利ヲアタイ一家一圓間ヨク暮事治三郎家永久伝事

右遺言書一札如件

親類一同様

第一、第二、第三目録<省略>

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